菜園便り353 鳥の死、再び 

菜園便り353  10月16日
鳥の死、再び                    安部文範
 海側の玄関横の水がめに小さな鳥の死骸が浮いていた。時々あることだからあまり驚かなかったけれど、やっぱりぎくりとする。そうしてその小ささにびっくりさせられる。生きていても濡れて羽毛がはりついているときは、ふくらみがなくて哀れなほどほっそりとしている。ふだん見ているかわいくふっくらとした外観は、張りのある羽毛や羽の力だとわかる。
 黒っぽい雀くらいの大きさで、背中や尾羽に黄色、というよりレモン色の羽が混じっている。こんな鳥は見たことがない、すごく珍しい鳥ではないのだろうかと思ったりもする。その小さな羽根で、どこかとても遠いところから渡ってきて、またどこかへ行こうとしていて、ここで潰えたのかもしれない、とか。
 いつものように掬って庭の奥に埋める。小石の混じる荒い土、浅い穴のなかに沈めて傍らのツワブキの葉で覆い土をかける。ざらざらとした土。昔みたギリシャの映画の埋葬シーンが思いだされる。石混じりの土が、穴の底の棺の上にごつごつと音をたてて落ちていく。身につまされて嗚咽さえうまれそうになった。不意の死、覚悟の死、誰もが必ずいつかは出会う死。「たとえどこで君が倒れても」といったことばや、「きみが死んでもたとえ話にもならない」という詩句も思いだされる。
 小さな鳥は眼を閉じ、なにもかも諦めたように黙って濡れたままだ。
 爽やかにさえ見えたレモン色が気になって調べてみると、カワヒラというこのあたりにもよくいる鳥のようだった。たくさんの鳥が来て鳴いているのに、気づくのはほんの2、3種くらいしかない。
 鳥は濡れても死んでも、羽は輝き、鮮やかな色は残っている。
 遠くで声がする。